人間の脳が持つ「2つの思考システム」と「英語」

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英語が話せないのは「脳の使い方」の違い?

文法も単語もそれなりに勉強したのに、いざ会話になると口から英語が出てこない。
そんな経験はありませんか?

その理由のひとつとして注目されているのが、人間の脳が持つ「2つの思考システム」の違いです。

システム1とシステム2とは?

ノーベル経済学賞を受賞した心理学者、ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)は、著書『Thinking, Fast and Slow(邦題:ファスト&スロー)』の中で、人間の思考は次の2つのシステムによって成り立っていると述べています。

  • システム1: 直感的・素早い・自動的な思考(無意識)
  • システム2: 論理的・ゆっくり・意識的な思考(意識)

システム1は、危険を察知したり、表情を読み取ったり、母語で会話したりといった「瞬間的な判断」や「自動的な反応」を司る部分です。
一方、システム2は、新しいことを覚える時や、計算・文章理解などの「意識して考える行動」を担当します。

システム1・システム2という名称は科学者によって、違いがある様です。
ただ、脳の中には無意識に直感的に答えを出すシステム1
複雑な計算等をする時に意識して使うシステム2があると今回は考えてください。

出典と論文での記述を見る

“System 1 operates automatically and quickly, with little or no effort and no sense of voluntary control. System 2 allocates attention to the effortful mental activities that demand it, including complex computations.”
― Kahneman, D. (2011). Thinking, Fast and Slow. Farrar, Straus and Giroux.

(訳:システム1は自動的かつ素早く、ほとんど努力も自発的な制御も伴わずに作動する。
システム2は、複雑な計算を含む努力を要する精神活動に注意を向ける)

あなたの脳は今、システム1?それともシステム2?

以下の3問は、システム1とシステム2の違いを体感するための有名なテストです。
いずれも直感で答えたくなるけど…ちょっと立ち止まって考えてみてください。

問題1:バットとボール

バットとボールの合計金額は1.10ドルです。
バットはボールより1.00ドル高いです。
では、ボールはいくら?

答えを見る

答え: ボールは 5セントです。

多くの人が「10セント」と答えてしまいますが、それだとバットが1.10ドルになってしまい、合計が1.20ドルになります。
正しくは、ボールが5セント、バットが1.05ドルです。

問題2:機械と製品

5台の機械が5分で5個の製品を作ります。
では、100台の機械100個の製品を作るには、何分かかる?

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答え: 5分

直感では「100分」と答えがちですが、1台の機械が5分で1つ作れるなら、100台が同時に動けば5分で100個作れます。

問題3:スイレンの葉

湖にスイレンの葉が浮かんでおり、その数は毎日2倍に増えていきます。
湖全体がスイレンで覆われるのに48日かかるとすると、
湖の半分が覆われるのは何日目?

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答え: 47日目

倍々で増えるので、48日目に全体が覆われたということは、前日はちょうど半分だったということになります。

問題のまとめ

このテストで直感的に答えて間違えた場合、あなたの脳はシステム1で考えていた証拠です。
答えを導き出すために少し立ち止まって考えた人は、システム2を使ったということ。

英会話も同じ。最初は「文法はこうで…」とシステム2を使って慎重に話すけど、
慣れてくると直感で返せるシステム1が働き始めます。
今回の例ではシステム1が間違った答えを選択する形になってしまいましたが、
実際システム1は優秀で大体の事は正解を選んでくれます。
ただ、この問題で自分の思考にシステム1とシステム2が存在する事が理解頂けたと思います。

この違いを知っておくと、自分の英語の“今のステージ”が見えてくるかもしれません。

ネイティブは「システム1」で話している

英語を母語として話すネイティブスピーカーは、英会話をする際にほぼ完全にシステム1を使っています
文法や語順を意識することなく、感情や状況に応じて直感的に言葉を出しています。

たとえば「How’s it going?」と聞かれたときに、「これは現在進行形だから…」なんて考えていません。
彼らにとって英語は、「反応」や「呼吸」のように無意識で使うものなのです。

私たちは「システム2」で話そうとしている

日本の英語学習者の多くは、英語を話すときにシステム2で頑張っています。

たとえば、“I want to go” と言いたいときに、
「主語はI、動詞はwant、あ、toの後は原形だっけ?」と一つひとつ思い出している状態です。

これはまさに、意識的・分析的なシステム2の特徴です。
当然ながら、会話のスピードにはついていけませんし、聞くのも話すのも疲れてしまいます。

「話せるようになる」とは、システム1が働く状態

では、英語がスラスラと話せるようになるとはどういう状態なのか?
それは、英語の処理をシステム1でできるようになることです。

英語に少し慣れてくると、I wantCould you? といった表現が、考えずとも自然に口から出てくることがあります。

それは、あなたの英語がシステム2(意識的な処理)から、システム1(無意識で自動的な処理)へと移行してきた証拠です。

つまり、「考えてから話す」のではなく、「聞いたら反応が出る」ようになること。
これはある日突然できるものではなく、反復・音読・実践の中で脳の神経回路を鍛えていくことで可能になります。

研究による裏付け

Second language learners initially rely on analytical processing (System 2) but can achieve more automatic processing (System 1) through extensive practice and exposure.
― Segalowitz, N. (2010). Cognitive Bases of Second Language Fluency. Routledge.

(訳:第二言語の学習者は最初、分析的処理(システム2)に頼るが、十分な練習と接触を通じてより自動的な処理(システム1)を実現することができる)

これができるようになると、文法ミスを恐れずに会話できるようになり、
むしろ自然なやりとりの中で「伝わる英語」が育っていきます。

脳科学的に見ても、英語は頭で覚えるより、体で慣れる方が効果的。
シャドーイングやオンライン英会話を使って、少しずつシステム1を目覚めさせていきましょう。

この記事を書いた人

Fojoのアバター Fojo エンジニア

「Fojo」はメキシコの言葉で“怠け者”。
その名に恥じず楽な方楽な方へゆるく生きてます。
だから英語の勉強も1番楽な勉強方法で。
在日米軍基地勤務で得たリアル英語を
"テストの点数"より“通じる英語”として楽しくお届け中。

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